前回ジョジョの全体の感想を書きました。
その中でも1作品だけ紹介させてください。
それは7部スティール・ボール・ラン。2026年にアニメ化が予定されてるシリーズ屈指の人気の作品です。
スティール・ボール・ランを読み終えたとき、正直に言うと、しばらく次の漫画を読む気になれませんでした。 それほどまでに、「旅が終わってしまった」という喪失感が強く残ったからです。
ジョジョは名前だけ知っているけれど、難しそう、長そう、途中から入るのは不安。 そんな理由で手に取ってこなかった人にこそ、このスティール・ボール・ランは読んでほしい作品だと感じました。
物語の舞台は、アメリカ大陸を横断する壮大なレース。 しかし、ただのレース漫画ではありません。 登場人物それぞれが「なぜ走るのか」という理由を抱え、その熱量がぶつかり合いながら物語は進んでいきます。
読み進めるほどに、気づけば僕自身もその旅の一員になっていました。
SBRの熱さの正体
スティール・ボール・ランの熱さは、派手なバトルや能力設定だけから来ているものではありません。
この物語がここまで熱く感じられる理由は、登場人物たちが「勝ちたい」以上の理由を持って走っているからだと、僕は感じました。
名誉のため。 過去を取り戻すため。 誰かを守るため。 あるいは、自分自身を肯定するため。
それぞれの理由は決して軽くなく、むしろ重くて、歪で、時には痛々しいものばかりです。 だからこそ、その想いがぶつかる場面には、自然と読む側の感情も引きずり込まれていきます。
特に印象的なのは、主人公が少しずつ変わっていく過程です。 最初から強くて格好いいわけではありません。 むしろ未熟で、迷いがあり、情けなさすら感じる存在です。
それでも旅を続ける中で、何を信じ、何を捨て、どう進むのかを選び続ける。 その積み重ねが、物語全体に高い熱量を生み出しているのだと思います。
読み終えたあとに残る熱さは、「すごいものを見た」という興奮だけではなく、「人が本気で生きる姿を見た」という感覚に近いものでした。
他作品にはないSBRの独自性
スティール・ボール・ランが特別だと感じる理由の一つは、「ジョジョでありながら、ジョジョでなくても成立している」点です。
シリーズ作品と聞くと、前の話を知らないと楽しめないのではないか、設定が難しいのではないか、と不安に感じる人も多いと思います。
しかしSBRは、登場人物や舞台、物語の前提がこの作品内で完結しています。 過去作の知識がなくても、物語についていけなくなることはほとんどありません。
それでいて、独特な能力表現や緊張感のある駆け引き、「どうしてそうなるのか分からないのに、なぜか納得してしまう展開」は、まぎれもなくジョジョらしさそのものです。
さらに特徴的なのは、正義と悪が単純に分かれていないところです。
誰が正しいのか、誰が間違っているのか、簡単には判断できないまま物語は進みます。 それぞれの立場には、それぞれの理由があり、そのどれもが強い意志に支えられています。
だからこそ、敵味方という枠を超えて、「この人物の覚悟は理解できる」と感じる瞬間が何度もありました。
レースという「旅構造」が生む没入感
スティール・ボール・ランの物語は、スタートとゴールがはっきりしたレース形式で進んでいきます。
この構造が、作品への没入感を驚くほど高めています。 物語が始まった瞬間から、「この旅はどこへ向かうのか」「誰が最後まで走り切るのか」という一本の軸が、読者の中に自然と生まれます。
しかし実際には、ゴールよりも大切なのは、その途中で何が起きるかです。
長い道のりの中で、出会いと別れがあり、一時的な協力や裏切りがあり、それぞれの覚悟が少しずつ浮き彫りになっていきます。
章が進むごとに舞台は変わり、風景も、状況も、登場人物たちの関係性も変化していきます。 それでも「前に進み続ける」という一点だけは変わりません。
この感覚は、短編の連続ではなく、本当に一つの長い旅を体験しているような感覚に近いと思います。
だからこそ読み終えたとき、物語が終わったというより、「一緒に旅をしていた時間が終わってしまった」そんな喪失感が強く残りました。
読み終えたあとに残った喪失感と余韻
スティール・ボール・ランを読み終えたとき、強く感じたのは達成感よりも、喪失感でした。
物語が完結したはずなのに、どこか置いていかれたような感覚が残り、しばらくページを閉じることができませんでした。
それは決して後味の悪さではありません。 むしろその逆で、あれだけの熱量を持った旅を最後まで見届けたからこそ、簡単に日常へ戻れなかったのだと思います。
登場人物たちは、それぞれが何かを賭け、何かを失いながら前に進み続けました。 その姿を長い時間追い続けてきた分、物語が終わることは、彼らと別れることに近い感覚でした。
読み終えたあとも、ふとした瞬間に印象的な場面や言葉を思い出します。 そしてそのたびに、「自分は今、ちゃんと前に進めているだろうか」と静かに問いかけられているような気がします。
スティール・ボール・ランは、読み終わった瞬間に完結する作品ではありません。 むしろ、読み終えたあとから、じわじわと心の中で走り続ける物語なのだと感じました。
まとめ:スティール・ボール・ランを勧めたい人
スティール・ボール・ランは、派手なバトル漫画を求めている人だけの作品ではありません。
何かに挑戦している途中の人。 過去の後悔や、うまくいかなかった経験を抱えたまま、それでも前に進もうとしている人。
そんな人にこそ、この物語は静かに、そして力強く寄り添ってくれる作品だと思います。
ジョジョシリーズを読んだことがなくても問題ありません。 むしろ先入観がないからこそ、純粋に一つの「旅の物語」として深く入り込めるはずです。
読み終えたあと、すぐに何かが変わるわけではないかもしれません。 それでもふとした瞬間に、登場人物たちの姿や言葉を思い出し、「もう少しだけ前に進んでみよう」と思える。
スティール・ボール・ランは、そんな小さな変化を、確かに心の中に残してくれる作品でした。

